同居の子どもと別居の子どもが相続人。
居住不動産(実家)が財産の中心で現金が少ない。
こんなときは「住む(生活)」と「持つ(財産)」を分けて、順番で決めましょう。
※本記事は、争いにならないための準備(論点整理・順番の設計)について解説します。すでに当事者間で争いがある場合や、相手方との交渉が必要な場合は、弁護士への相談をご検討ください。
相続で噛み合わない瞬間
兄(同居)「俺が住んでるんだから、実家は俺でいいよね」
妹(別居)「でも相続でしょ。現金は少ししかないって聞いたよ。私は何を受け取るの?」
――この会話、どちらが悪いというより、話題が混線しています。
同居している子は「生活」を守りたい。別居の子は「取り分」が心配。
同じ“実家”を見ていても、見ている論点が違うのです。
この記事の前提:いちばん揉めやすい形を想定
この記事が想定しているのはこのタイプ。
- 相続人は子ども(きょうだい)が2人以上
- そのうち1人が実家に同居、他は別居
- 相続財産は実家(居住不動産)が中心で、現金は多くない
- 同居側は住み続けたい、別居側は売却して財産を分けたい
この条件だと、家の話がそのまま「取り分の話」になるため、話し合いが止まりがちです。だから先に、話題を分けて、決める順番を固定します。
※なお、本シリーズでは税務の詳細(評価・特例・申告実務等)は主題にしていません。これについては別途確認が必要となります。
※本回は“子ども(きょうだい)中心”を想定します。配偶者が相続人となる場合/遺言がある場合/不動産の権利関係(共有持分・抵当権等)が複雑な場合は前提が変わるため、まず有無と内容を確認してください。
先に結論
結論1:「家を分ける」より先に、家の問題を分けて考える
実家には少なくとも2つの問題が混ざっています。
- 生活の基盤としての側面(住む):誰が、いつまで住むのか
- 財産としての側面(持つ):名義・取り分・出口(最後どうする)をどうするか
この2つを分けて話を進めると会話が噛み合い始めます。
結論2:決める順番は「住まい→お金→責任→期限」で固定する
順番が逆だと、話があとで戻ります。
だから、議題の並びを固定します。
- 住まい
- お金
- 責任
- 期限
結論3:着地点はだいたい3つ
最終形は多くがこの3つに整理できます。
- A:買い取り(代償分割)
- B:期限付きで住む → 将来売る(または再協議)
- C:売って分ける
地雷マップ:もめやすいポイント
- 同居側が「住んでる=自分のもの」と感じている。
- 別居側は「私の持ち分はどうなるの?」で不安と不満が膨らむ
- 期限がないまま同居が続き、時間とともに不公平感が増大
- 固定資産税・修繕・管理の担当が曖昧で、支出のたびに揉める
- 売らない方針を決めたのに、代わりのお金(代償金)が払われない
解説:まず「住む」と「持つ」を、同じ言葉で話せるようにする
住む=生活の安全(暮らしの見通し)
同居の子が怖いのは、たいていこれです。
「突然出ていけと言われたら生活が崩れる」。
だから「住む」は、権利の主張というより生活条件として整理します。
- 誰が住む
- いつまで住む(仮でOK)
- 引っ越し可能性(高/中/低)
持つ=財産としての権限(名義・出口・取り分)
別居の子が怖いのは、たいていこれです。
「取り分がもらえない」「自分ばかり損する」
ここには感情的な問題も混ざりがちです。なので、話し合いの順番が大切です。
※一般的な整理です。遺言・相続人構成・不動産の権利関係等で結論が変わり得るため、具体的には必要に応じて確認が必要です。
4ステップ
①住まい:誰が、いつまで住む?(期限を必ず入れる)
ここが最初になります。同居側は「追い出されるのでは」という不安があります。現実的にも、今すぐ出ていくのは困難な場合が多いので、そこをまず見通しをたてる必要があります。
そこで、同居側の生活の見通しを立て、期限を仮でいいので置きます。
(例:3年/5年/親の生活状況が変わるまで/子の卒業まで。)
ここで大切なのは、この期限を絶対的なものとして「何がなんでもこの日までに出ていけ」のような態度をとらないこと。一気にこじれます。
期限は「追い出し」のためではなく、判断のための目安です。この期限後にどのような選択を取り得るかを話し合うためのものと考えてください。
②お金:どう公平にする?(概算でOK)
住まいの期限が見えると、「じゃあ取り分は?」が現実の話になります。
ここでは「同居側による買い取り(=代償金を別居側に支払う)ができそうか/お金が足りないか」を先に見ます。
足りないなら、買い取り一本にせず、期限付きや売却も選択肢として残しましょう(深掘りはシリーズ②へ)。
③責任:税金・修繕・管理は誰が担当?
固定資産税や修繕など、家は持っているだけで支出と手間が発生します。最終的に、同居側が家を所有する場合は比較的問題は起きませんが、もし同居に期限をつけて、そのあとで売却する場合、後から争点になりやすくなります。
- 同居側の不安:「負担だけ背負わされる」
- 別居側の不安:「関与できないのに請求だけ来る」
④期限:いつ合意して、いつ手続きして、出口をどうする?
最後に進行管理です。期限がないと現状維持が続き、感情だけが積もります。
- 同居側の不安:「いつまでこの話が続くのか分からない」
- 別居側の不安:「期限がない=ずっと棚上げ」
こうした感情が積もっていくと争いになりかねません。仮に裁判にでもなれば、大変な手間と労力、そしてなにより、感情的にも疲弊し、人間関係にも大きな傷が残ります。
これを避けるために、まず合意に向けた期限、その後の名義(登記等)への期限、そして、売却や代償金などの期限を設定しましょう。
着地点の3パターン
A:買い取り(代償金)
早く終わりやすく、同居の生活も安定しやすい。
ただし現金不足で止まりやすいので早めに見える化が必要です。(シリーズ②へ)
B:期限付きで住む → 将来売る
いまの暮らしを守りつつ、将来に出口を置けます。
ただし期限と負担ルールが弱いと、不公平感が残りやすい形です。
C:売って分ける
公平で明快。
ただし同居側の生活の影響が大きく、負担感も大きいです。
ケース分け:あなたの状況はどれ?
分岐1:親(配偶者)が住む/住まない
- 親が住む:まず①住まい優先で期限を置く(Bが候補に入りやすい)
- 親が住まない:AまたはCが現実的になりやすい
分岐2:同居の子が住み続けたい/住み続けない
- 住み続けたい:AかBをまず検討(②お金の確認が先)
- 住み続けない:Cが進めやすい
分岐3:関係が良好/不仲
- 不仲ほど、期限なし共有は重くなります(④期限・③責任を厚めに)
よくある失敗
- 名義だけ先に決めた → 住まいの期限がなく揉め直す
- 「売らない」とだけ決めた → 代償金が払われず、再度もめる
- 管理・修繕の担当不明 → 支出のたびに不公平感が可視化して揉め直しやすい
- 期限なし共有 → 出口が見えず関係が悪化する
「住む/持つ」 分けて考えるメモ
話し合いの前に、それぞれが下のメモに希望を記入しておくと、話がまざりにくくなります。
住む(生活)
・誰が住む:____
・いつまで:____
・引っ越し可能性:高/中/低(理由:____)
持つ(財産)
・最終的な名義:____
・売る/売らない:____
・出口(買い取り/期限付き/売却):____
・維持費(税・修繕・管理)の担当:____
・合意/名義の整理(登記等)/出口の期限:____/____/____
メモの書きかた
- 実家の話を「住む(生活)」と「持つ(財産)」に分けて書く
- 「誰が住む/いつまで」を必ず書く
- 引っ越し可能性(高/中/低)を置く(理由も一言)
- 売らないなら、何で調整するか当たりをつける(概算)
- 固定資産税・修繕・管理の担当者と支払い口を決める
- 合意/名義の整理(登記等)/出口の期限を分けて決める
- 4ステップのうち、いま止まっている場所に丸を付ける
- 止まり方で次に読む記事を選んでください
(シリーズ②=お金、シリーズ③=対立の着地、シリーズ④=共有ルール)
まとめ
同居相続が重くなるのは、「実家」という1つの箱に、生活と財産の話を混ぜるからです。住む(生活)と持つ(財産)を分けて、住まい→お金→責任→期限の順番で決めましょう。
まずは家族それぞれが「分けて考えるメモ」を1枚書き、違うところだけ話してみてください。会話が前に進みやすくなります。
- 「売らないのに現金が足りない」で止まったら → シリーズ②(代償金)
- 「売る/売らない」で対立して止まったら → シリーズ③(着地点設計)
- 「共有しかない」と言われたら → シリーズ④(共有ルール)
免責・取扱領域について
※本記事は、現在の法令・通達・運用等を前提とした一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な事情に対する法的判断・税務判断を行うものではありません。財産内容、家族関係、居住状況、契約状況、評価・税務上の取扱い等により結論は異なり得ます。
※法令・通達・運用等は将来変更される可能性があります。最新の取扱いは、必要に応じて専門家への確認が必要です。
専門領域の目安(確認・依頼が必要な場面)
- 当事者間に争いがある/相手方との交渉が必要:弁護士への確認・依頼が必要です。
- 相続税・贈与税等の税額判断、申告の要否・方法:税理士への確認が必要です。
- 相続登記・名義変更、抵当権抹消等の登記手続:司法書士への確認・依頼が必要です。
- 土地の分筆、境界、表題部(表示に関する登記)等:土地家屋調査士への確認・依頼が必要です。
- 不動産の価格査定・売却実務:不動産会社等での確認が必要です。
当方(行政書士)は、(争いがない前提での)事実整理と書類作成支援に加え、全体の進め方(順番・必要手続・担当分野)を整理し、必要に応じて適切な専門家への相談につながるよう手順を整えます(交渉代理は行いません)。

