なぜ話がかみ合わない?
同居している家族がいる実家相続
親が亡くなったあとの実家の相続。
きょうだいで話し合いを始めようとした途端、会話が止まってしまうことがあります。
別に、誰かがひどいことを言ったわけではない。
きょうだい仲が特別悪いわけでもない。
それなのに、実家の話になると、急に空気が重くなる。
同居している家族がいる実家相続では、こういうことがよくあります。
なぜ話がかみ合わなくなるのか。
それは、同じ「実家」の話をしていても、それぞれが見ているものが違うからです。
よくある実家相続のケース
たとえば、こんなご家族を考えてみます。
父が亡くなりました。
相続人は、兄と妹の2人です。
兄は、父と同居していて、父が亡くなったあともそのまま実家に住み続けています。
妹は結婚して家を出ており、別の場所で暮らしています。
父の財産は、実家と少しの預貯金。
預貯金だけで、兄妹2人が十分に分けられるほどの金額はありません。
この2人が、実家をどうするか話し合おうとすると、こんな会話になりがちです。
兄は言います。
「自分はここにずっと住んでいるし、これからも今の生活を変えるのは難しい。できれば、このまま住み続けたい」
妹は答えます。
「それは分かる。でも、実家がほとんどの財産だよね。お兄ちゃんが家を取得するなら、私は何を受け取れるの?」
兄からすれば、自分の暮らしを守りたいという話です。
妹からすれば、自分の相続分はどうなるのかという話です。
どちらの言い分も、決しておかしなものではありません。
ただ、ここで話が止まります。
兄は、「妹は自分を追い出したいのだろうか」と感じるかもしれません。
妹は、「兄は実家を全部自分のものにするつもりなのだろうか」と不安になるかもしれません。
同じ実家の話をしているのに、見ているものが違うのです。
なお、この記事では、売却や相続人による取得を現実的に考えられる実家を前提にしています。売りたくても売れない不動産や、管理の負担ばかりが大きい不動産は、考える順番が少し変わります。その場合は、実家を誰が取得するかより先に、管理や処分の可能性を確認する必要があります。
原因は「見ているものが違う」こと
話がかみ合わない大きな理由は、実家に対する見方が人によって違うことです。
住んでいる人にとって、実家は生活の場所
同居している人にとって、実家は単なる財産ではありません。
毎日の暮らしの場所です。
寝起きする場所であり、郵便物が届く場所であり、近所付き合いもある場所です。
仕事、介護、子どもの学校、生活費の都合なども関わっているかもしれません。
その人にとって、「実家を売る」という話は、ただ不動産を売る話ではありません。
住む場所をどうするかという話です。
だから、別居している相続人から「売った方が分かりやすい」と言われると、責められているように感じることがあります。
別居している人にとって、実家は相続財産
一方で、別居している人にとって、実家は親が残した大きな財産です。
自分はそこに住んでいない。
使う予定もない。
でも、相続人である以上、自分の取り分がどうなるのかは気になります。
特に、財産の大部分が実家で、預貯金が少ない場合は不安になりやすいです。
「実家を同居している人が取得するなら、自分は何を受け取るのか」
「このまま何も言わないと、自分の分はなくなってしまうのではないか」
そう考えるのは自然なことです。
介護や同居をしてきた人には、これまでの負担がある
さらに、介護や同居の負担がある場合は、話がもう少し複雑になります。
親の通院に付き添っていた。
買い物や食事の世話をしていた。
夜間の見守りをしていた。
家の修繕費や固定資産税を払っていた。
こうした負担は、外からは見えにくいものです。
同居していた人は、「自分はずっと親を支えてきた」という思いを持っているかもしれません。
別居していた人は、「そこまで大変だったとは知らなかった」と感じるかもしれません。
ここを整理しないまま財産の話だけをすると、気持ちの面で納得しにくくなります。
迷子にならないために、最初に分けたい3つのこと
実家の相続では、生活の話、財産の話、介護や同居の負担の話が重なります。
この3つを一度に話そうとすると、話し合いはまとまりにくくなります。
まずは、次の3つに分けて考えます。
1. 誰が住み続ける必要があるのか
最初に見るのは、住まいの話です。
誰が実家に住んでいるのか。
その人は、今すぐ引っ越せるのか。
一定の期間、住み続ける必要があるのか。
ここを確認します。
「住みたい」という希望だけでなく、生活上の事情も見ます。
高齢の親がまだ住んでいる場合もあります。
同居している子ども世帯が住んでいる場合もあります。
介護や仕事の都合で、すぐに動けないこともあります。
住む人がいるなら、まずその暮らしをどうするかを考えます。
2. 家を残すなら、他の相続人にどうするのか
次に、お金の話です。
実家を売らずに残す場合、別居している相続人には何を渡すのか。
預貯金で調整できるのか。
住む人が他の相続人にお金を払えるのか。
そもそも、実家を残すことに無理がないのか。
ここを避けたまま、「家は残したい」とだけ言っても、話は進みにくくなります。
大切なのは、早い段階で大まかな金額感を見ることです。
実家がだいたいどれくらいの価値なのか。
預貯金がどれくらいあるのか。
他の相続人に渡せるお金があるのか。
足りない場合、住む人が支払えるのか。
正確な評価額まで最初から出す必要はありません。
ただ、まったく数字を見ないまま話すと、希望だけが先に立ってしまいます。
3. いつまで今の状態を続けるのか
最後に、期限の話です。
すぐに結論が出ないことはあります。
親が亡くなった直後で、気持ちが落ち着かないこともあります。
住んでいる人がすぐに引っ越せないこともあります。
だから、今すぐ全部決めなければならない、ということではありません。
ただし、「そのうち話そう」のままにしておくと、何年もそのままになることがあります。
その間も、固定資産税はかかります。
修繕が必要になることもあります。
空き家になれば管理の問題も出てきます。
さらに次の相続が起きると、関係者が増えることもあります。
今すぐ結論を出せない場合でも、いつ頃もう一度話すのか、どこまでに何を確認するのかは決めておきたいところです。
実家相続の方向性は大きく3つ
同居している家族がいる実家相続では、方向性は大きく3つに分かれます。
1. 住む人が実家を取得する
1つ目は、実家に住む人がそのまま家を取得する形です。
同居している人の暮らしは守りやすくなります。
住まいを変えずに済むので、生活への影響も少なくなります。
ただし、他の相続人への調整が必要です。
預貯金が少ない場合は、住む人が他の相続人にお金を払う必要が出てくることがあります。
ここで大事なのは、「実際に払えるかどうか」です。
気持ちとして払うつもりがあっても、金額に無理があれば、後で困ります。
2. しばらく住んで、あとで売る
2つ目は、一定期間は住み続けて、その後に売却を考える形です。
今すぐ売るのは難しい。
でも、ずっと同居している人だけが住み続けるのも、他の相続人が納得しにくい。
そのような場合に考えやすい形です。
ただし、この場合は、いつまで住むのかを決めておくことが大切です。
あわせて、その間の固定資産税や修繕費を誰が負担するのか、将来売るのか、買い取るのか、再度話し合うのかも確認しておきます。
3. 売って分ける
3つ目は、実家を売って、現金で分ける形です。
一番分かりやすい方法です。
不動産を現金にすれば、相続人で分けやすくなります。
ただし、住んでいる人には大きな影響があります。
引っ越し先を探す必要がありますし、生活費や仕事、介護の事情も関係します。
売却が一番公平に見える場合でも、住んでいる人の暮らしをどうするかは考えておく必要があります。
まずは、結論を急がない
実家相続の話し合いでは、つい「誰の言い分が正しいか」という話になりがちです。
住んでいる人の希望。
別居している人の不安。
介護や同居をしてきた人の思い。
家の管理や費用の問題。
将来どうするかという問題。
これらが重なっているから、話が難しくなります。
だから、最初にすることは、結論を急ぐことではありません。
まず、何が重なっているのかを分けて見る。
そのうえで、どこから話すかを決める。
それだけでも、話し合いの入り口は見えやすくなります。
まとめ
同居している家族がいる実家相続では、いきなり「家を誰の名義にするか」から始めない方がよいです。
まずは、次の3つを確認します。
- 誰が住み続ける必要があるのか
- 家を残すなら、他の相続人にどう調整するのか
- いつまで今の状態を続けるのか
そのうえで、方向性を考えます。
住む人が実家を取得する。
しばらく住んで、あとで売る。
売って分ける。
どの形がよいかは、家族の事情によって変わります。
大切なのは、最初から答えを決めつけないことです。
実家の相続は、家を誰のものにするかだけの話ではありません。
そこに住む人の暮らし、別居している人の取り分、介護や同居の負担が重なっています。
まずは、その話を分けて考える。
そこから、家族に合った進め方を探していきます。
※本記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。すでに当事者間で争いがある場合や、相手方との交渉が必要な場合は、弁護士への相談をご検討ください。税務判断は税理士、登記手続は司法書士など、内容に応じて各専門家への確認が必要です。行政書士は、争いがない前提で、事実整理、必要書類の作成、手続きの段取り整理を支援します。

