同居の子と実家の遺産分割シリーズ2(代償金)

この家は売りたくない。
俺はここで両親を介護し、ここで暮らしているんだ。

親が亡くなったあと、実家の話し合いでよく出てくる言葉です。

同居していた子にとって、実家はただの不動産ではありません。
親との暮らしがあり、介護の記憶があり、これからの生活の場所でもあります。

一方で、別居しているきょうだいにも言い分があります。

住み続けたい気持ちは分かるけど、、、
私の相続分はどうなるの?

ここで問題になりやすいのが、代償金です。

代償金とは、このケースの場合、
実家を一人が引き継ぐ代わりに、他の相続人とのバランスを取るために支払うお金です。

たとえば、兄が実家に住み続ける代わりに、妹へ現金を渡す。
このような形が取れれば、実家を売らずに残せる可能性があります。

ただし、そこで必ず問題になるのが、次の3つです。

  • その実家をいくらと見るのか
  • いくら払えば、相手が納得できるのか
  • そのお金を本当に用意できるのか

つまり、代償金の話は、単に「払う・払わない」の話ではありません。
金額の前提をそろえ、支払い方まで決める話です。

この記事で想定している場面

この記事では、主に「親が亡くなり、相続人である子どもたちが、実家を誰が取得するか話し合う場面」を想定しています。
配偶者がいる場合、遺言がある場合、相続人の一部に判断能力の不安がある場合などは、考える順番が変わることがあります。

代償金で話が止まりやすい家庭

次のような家庭では、実家の遺産分割で話が止まりやすくなります。

  • 親と同居していた子がいる
  • その子が実家に住み続けたい
  • 実家以外に大きな財産がない
  • 預貯金があまり残っていない
  • きょうだいの一人だけが介護を担っていた
  • 家族でお金の話を避けてきた

同居していた子は、こう思います。

自分は親の面倒を見てきた。
この家を出たら生活が成り立たない。
だから、実家は自分が引き継ぎたい。

その気持ちは自然です。

でも、別居しているきょうだいから見ると、こう感じることがあります。

実家を引き継ぐ人だけが、大きな財産を受け取る。
こちらには、ほとんど何も残らない。
それは不公平じゃないの。

どちらかが一方的に悪い、という話ではありません。

問題の中心にあるのは、実家という大きな財産を一人が取得する一方で、他の相続人にどう納得してもらうかです。

現金で調整できるのか。
調整できないなら、別の形を考えるのか。

ここを曖昧にしたまま話すと、感情のぶつかり合いになりやすくなります。

なお、介護をしていた事情はとても大切です。
ただし、介護をしたから当然に相続分や代償金が変わる、とは限りません。介護の内容、期間、費用負担、親の財産への影響などを分けて整理する必要があります。

まずは3つの順番で考える

代償金で話が止まったときは、次の順番で考えます。

  1. いくら足りないのかを出す
  2. そのお金をどう用意するか考える
  3. 無理なら、実家の残し方を考え直す

いきなり、

払えるの?
払えないなら売るしかないでしょ。

と話し始めると、感情的になりやすくなります。

まずは、数字を見ます。

話し合いの入口では、概算でかまいません。
100万円足りないのか。
500万円足りないのか。
1,000万円以上足りないのか。

この違いで、取れる選択肢は大きく変わります。

ただし、最終的に合意する段階では、評価の根拠を確認する必要があります。
実家の価格は、固定資産税評価額、不動産会社の査定、実際の売却見込み額などで差が出るからです。

たとえば、こんなケースです

相続人は兄と妹の2人。
兄は実家に同居。
妹は別に暮らしています。

実家の目安価格は2,400万円。
預貯金は200万円。
兄は実家に住み続けたい。

ここでは、次のような単純な例として考えます。

  • 遺言はない
  • 配偶者はいない
  • 相続人は子ども2人だけ
  • 生前贈与や介護の貢献はいったん考えない

この前提でざっくり見ると、遺産全体は、

実家2,400万円 + 預貯金200万円 = 合計2,600万円

です。

兄妹で半分ずつを目安に考えるなら、それぞれ1,300万円です。

兄が実家を取得し、妹が預貯金200万円を取得する前提だと、妹の目安額1,300万円との差は1,100万円です。

この差をどう調整するか。そこで、代償金の支払いが検討されます。

もちろん、実際の分け方は、相続人全員の話し合いで決めるものです。
法定相続分は一つの目安にはなりますが、必ずその割合で分けなければならない、という意味ではありません。

いずれにせよ、大切なのは、
「家を残したい」という気持ちだけでは、話はまとまらない、ということ。

他の相続人が納得できる形をどう作るかまで考えて、初めて現実的な話になります。

代償金をどう用意するか

不足額が見えたら、次は「どう用意するか」です。

代償金の原資は、大きく分けると3つです。

  1. 手持ち資金で払う
  2. 借入を使う
  3. 分割で払う

まずは、それぞれについて「できる・難しい・分からない」と分けてみます。

手持ち資金で払う

手持ち資金で払えるなら、話はまとまりやすくなります。

ただし、同居していた場合は、親のお金と子どものお金の流れが分かりにくくなっていることがあります。

たとえば、次のような場合です。

  • 親の通帳を管理していた
  • 親の生活費と自分の生活費を同じ財布から出していた
  • 介護費用や家の修繕費の負担が曖昧になっている

こうした場合、後から説明を求められることがあります。
通帳、領収書、介護費用や修繕費の負担状況を整理しておくことが大切です。

借入を使う

借入で払う方法もあります。
ただし、ここでいう借入は、通常の住宅ローンとは少し違います。

これから家を買う場合は、その家を担保に住宅ローンを組むのが一般的です。
一方、相続の場合、実家はまだ親名義のままです。自分が住んでいても、名義が自分でなければ、自由に担保に入れることはできません。

そのため、「実家を担保にすれば借りられるはず」と簡単には考えない方がよいでしょう。

借入を使うなら、家族で約束する前に、金融機関へ相談し、実際に借りられる見込みがあるかを確認しておく必要があります。

実家を担保に代償金を借りる場合の注意点

実家を担保にして代償金を借りられる可能性はあります。

ただし、実務上は、遺産分割協議で「同居していた子が実家を取得し、他の相続人に代償金を支払う」と決めたうえで、相続登記、担保設定、融資、代償金の支払いを一連の流れで進められるかを金融機関に確認することになります。

確認したいのは、たとえば次のような点です。

  • 実家の担保評価はどのくらいか
  • 借りる人に安定した収入があるか
  • 年齢や返済期間に無理がないか
  • 他の相続人との合意が整っているか
  • 相続登記や担保設定を進められるか
  • 固定資産税や修繕費も払い続けられるか

「借りれば何とかなる」と考えて遺産分割を進めると、あとで資金が用意できず、話し合いが行き詰まることがあります。

分割で払う

一括で払えない場合は、分割払いも考えられます。

ただし、

少しずつ払うよ。
落ち着いてからね。

では足りません。

分割にするなら、少なくとも次のことは確認します。

  • 総額はいくらか
  • いつから払うのか
  • 毎月いくら払うのか
  • いつまでに払い終えるのか
  • 支払いが遅れたときはどうするのか
  • 書面化や担保をどう考えるか

大切なのは、いくらを、いつまでに、どう払うかです。

ここを曖昧にすると、後でもう一度揉めることになります。
条件で対立している場合は、無理に当事者だけで詰めず、専門家に相談してください。

無理なら、残し方を変える

代償金の話では、早めに「これは無理かもしれない」と気づくことも大切です。

たとえば、次のような場合です。

  • 不足額が大きすぎる
  • 借入が現実的でない
  • 分割払いの原資がない
  • 支払期限を決められない
  • 実家の維持費まで考えると家計がもたない

このような状態で、「何とかなる」と進めるのは危険です。

それは、気持ちが足りないという話ではありません。
数字として無理があるのです。

その場合は、実家の残し方を考え直します。

  • 一定期間だけ住み、その後売却する
  • 売却して現金で分ける
  • 代償金の金額や支払方法を再調整する
  • 共有にする場合は、管理や売却のルールを書面で確認する

特に、共有は、将来の売却、修繕、固定資産税、次の相続で問題になりやすい方法です。
安易に「とりあえず共有」にせず、先のことまで考えておく必要があります。

実家を残したい気持ちは、大切です。

でも、残し方を間違えると、実家が家族をつなぐ場所ではなく、家族を苦しめる原因になってしまうことがあります。

家族会議の前に書く、代償金メモ

いきなり家族で話し合う前に、まずは次のメモを埋めてみてください。

正確な金額でなくてもかまいません。
分からないところは空欄で大丈夫です。

大切なのは、何が分かっていて、何が分かっていないのかを、見える化することです。

【1】家族のこと

相続人は何人ですか:__人
実家に住み続けたい人は誰ですか:______
相続人全員と連絡が取れますか:はい/いいえ/分からない
判断能力に不安がある人はいますか:いる/いない/分からない

【2】財産と費用のこと

実家の目安価格:およそ____万円
預貯金:およそ____万円
その他の財産:ある/ない/分からない
借入金・未払金:ある/ない/分からない
葬儀費用・登記費用・税金など:およそ____万円
測量・解体・大規模修繕の可能性:ある/ない/分からない

【3】代償金のこと

他の相続人に渡す必要がありそうな金額:およそ____万円
すぐに用意できる現金:およそ____万円
足りない金額:およそ____万円

【4】用意する方法

手持ち資金で払える:はい/難しい/分からない
借入を考えられる:はい/難しい/分からない
分割払いなら可能:はい/難しい/分からない

分割の場合、毎月払えそうな金額:____万円
何年で払い終える予定か:__年

【5】実家を残した後の費用

固定資産税:年間およそ____万円
火災保険料:年間およそ____万円
修繕費の見込み:およそ____万円
将来、売却や解体の可能性:ある/ない/分からない

このメモを埋めるだけでも、話し合いの質は変わります。

「家を残したい」から一歩進んで、
「どう残すのか」
「そのためにいくら必要なのか」
「無理があるなら、どこで考え直すのか」
が見えてくるからです。

家族会議だけで進めにくい場合

相続人の中に、判断能力に不安がある人、未成年者、連絡が取れない人がいる場合は、通常の家族会議だけでは進めにくいことがあります。

また、すでに対立がある場合も、当事者だけで無理に話を進めると、かえってこじれることがあります。

その場合は、早めに専門家へ相談してください。

話し合いでは、こう伝える

代償金の話は、言い方を間違えるとすぐに感情的になります。

同居している側は、こう伝えるとよいでしょう。

家を残したいと思っている。
代償金については、金額と支払方法をきちんと整理して提案するよ。

別居している側は、こう伝えると角が立ちにくくなります。

家を残すこと自体に反対しているわけじゃないのよ。
でも、その場合、代償金を、いつまでに、いくら、どうやって払ってもらえるのかは確認しておかないとね。

「払うつもりはある」「売ればいい」このぶつかり合いでは、話は進みません。

合言葉は、これです。

気持ちは分かった。
今日は、不足額・原資・期限を確認しよう。

感情のぶつけ合いではなく、確認項目に落とす。
それだけで、話し合いは進めやすくなります。

実家を取得した後の登記にも注意

実家を誰が取得するか決まった後は、相続登記も必要になります。

現在は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが原則です。正当な理由なく申請しない場合は、過料の対象になる可能性があります。

実家の分け方が決まったら、登記の手続きも先送りにしないようにしましょう。

まとめ

実家を売らずに残したい場合、代償金の問題は避けて通れないことがあります。

大切なのは、次の3つです。

  1. まず、不足額を出す
  2. 原資を、手持ち資金・借入・分割払いで考える
  3. 数字が合わないなら、無理に押し切らず設計を変える

代償金の話は、お金の話です。
でも、それだけではありません。

同居していた子の生活。
別居しているきょうだいの納得。
親が残した実家への思い。
これからの家族関係。

それらが全部、代償金の話に重なってきます。

だからこそ、「払うつもり」だけで終わらせないことが大切です。

いつまでに、いくら、どう払うのか。

ここまで整理できると、話し合いは前に進みます。

まずは、家族会議の前に代償金メモを埋めてみてください。
足りない金額の大きさが見えるだけで、次に考えるべきことがはっきりします。

免責・取扱領域について

本記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。個別の財産内容、家族関係、不動産の状況、遺言の有無、税務上の取扱いなどにより、必要な対応は異なります。

本記事のメモは、家族間で状況を整理するためのものです。相手方を説得したり、条件交渉を代わりに行ったりするものではありません。

当事者間に争いがある場合や交渉が必要な場合は弁護士へ、相続税や贈与税の判断は税理士へ、相続登記や名義変更は司法書士へ、不動産の査定や売却は不動産会社等へご相談ください。

行政書士は、争いがない前提での事実整理、書類作成、手続きの順番整理、必要な専門家への橋渡しを行います。交渉代理は行いません。