同居の子どもと別居の子どもが相続人。
実家は売らずに住み続けたい。
でも、代償金はどうする?
※本記事は、争いにならないための準備(論点整理・順番の設計)について解説します。すでに当事者間で争いがある場合や、相手方との交渉が必要な場合は、弁護士への相談をご検討ください。
止まっているのは、気持ちじゃなくて「お金の出口」
兄(同居)「家は残したい。でも、きょうだいに払う現金がないんだ…」
弟(別居)「じゃあ売るしかないじゃん。いつまで待てばいいの?」
――ここで起きているのは、お金の出口が未設計なことによる停止です。
代償金を「どう作るか」が決まっていないまま、「売る/売らない」だけで押し問答になると、話は前に進みません。
これを交渉で勝ち負けにしてしまうより、順番(不足額→原資→見切り)で整理してみましょう、という回です。
この記事の前提:よくある「現金不足」
想定するのは、こういうケースです。
- 相続人は子ども(きょうだい)複数
- 実家に同居している子がいて、実家は売りたくない(住み続けたい)
- 遺産は実家が中心、現金は多くない
- 実家は売らずに、同居側が住み続けることになった。
この形では、家を残す=誰かが家を引き取る=他の相続人に現金等で調整が必要になります。そこで登場するのが 代償金(代償分割) です。
※本シリーズでは税務の詳細(評価・特例・申告実務等)は主題にしていません。これについては別途確認が必要となります。
※評価額、相続人の構成、遺言の有無、不動産の権利関係(持分・抵当権等)で前提は大きく変わります。必要に応じて、各分野の専門家への確認が必要です(末尾参照)。
先に結論
結論1:売らないなら「払えるか」の前に「不足額」を出す
「払え」「払えない」の押し問答になる前に、
不足額(どのくらい足りないか)をはっきりさせましょう。
ここではまず、正確な金額よりも、止まらない程度の概算で「足りない桁」を出します。
結論2:原資は3ルート(手持ち/借入/分割)
選択肢を広げすぎると迷って止まります。
代償金の原資は基本、次の3つに整理できます。
- 手持ち(貯蓄・保険・資産整理)
- 借入(金融機関等)
- 分割払い(合意+期限+書面)
まず○×△を付けて、できる・できないを早めに判定します。
結論3:数字が合わないなら設計変更も
数字が合わないときに、無理に押し切るのが一番危険です。
「誰が悪い」のではなく、数字的に無理筋なだけ。
その場合は出口を変えます(売却/期限付き居住など)。
シリーズ③へどうぞ。
地雷マップ:代償金で問題が起きやすいのは
- 実家が遺産の大半で、現金がほぼない
- 「後で何とかする」で先延ばし(期限が空白)
- 「払える」と言っても信用されない
- 借入前提なのに、名義や担保の整合が考えられていない
- 分割払いの原資が「期待」って?
地雷は、早く見つけた方が被害は軽く済みます。
全体像:「順番」の地図(今回の主役は②お金)
同居相続は、いつも同じ順番で考えると止まりにくいです。
- ①住まい(誰が・いつまで住む)
- ②お金(不足額→原資→無理筋の見切り) ←今回の主役
- ③責任(税・修繕・管理の担当)
- ④期限(合意・名義の整理(登記等)・出口の締切)
解説:代償金が必要になりやすい場面
条件1:実家など不動産が遺産の大半(家に偏る)
家は、きれいに割れません。分けにくいぶん、現金で調整する発想が必要になります。
条件2:相続人が複数(清算の相手がいる)
相続人が1人なら調整相手がいません。複数いるから取り分の調整が必要になります。
条件3:「売らない」を選ぶ(出口が代償金になりやすい)
売れば現金化できます。売らないなら、誰かが家を引き取り、他の人へ別の形で調整することになります。その中心が代償金です。
まず概算:正確さを求めない
なぜ“ざっくり”でいいのか
正確にやろうとすると、資料集めと評価で時間が溶けます。
この段階の目的は正確さより、まずこれです。
- 不足額の「桁」を出す
- 「手持ち/借入/分割」のどれが現実的かを判定する
まず動かす。正確な計算は後からでもできます。
概算の作り方(例):家の目安→取り分→不足額
やることは3つだけです。
1)実家の目安価格を置く(目安でOK)
- 不動産会社の簡易査定
- 近隣の成約事例の目安
- 公的評価(参考程度)
※ここは“数字の手がかり”を集めるだけ。断定はしません。
2)相手に渡す必要がある概算を出す
- きょうだいの人数と、ざっくりの取り分感を置く
3)不足現金を出す
- 不足現金(概算)=(相手に渡す必要がある概算)−(用意できる現金)
この「不足現金」が見えると、議論の空気が変わります。
気持ちの押し問答が、「どの原資で埋める?」に変わるからです。
原資ルート3つ(できる/できないの判断軸)
「選択肢は多いほど良い」ではなく、3つに絞った方が早い。
その代わり判断軸ははっきり持ちます。
比較表:原資3ルート(○×△を付ける)
手持ち:貯蓄・保険・資産整理など
- 向きやすい:まとまった手元資金がある/早期決着したい
- 注意点:家計混在だと信用されにくい/説明(棚卸し)が必要
借入:金融機関等
- 向きやすい:収入が安定/返済計画が立つ
- 注意点:審査・金利・返済負担/名義・担保等の整合は要確認
分割:月払い・年払いで支払う
- 向きやすい:今は資金が薄いが継続支払い余力がある
- 注意点:期限と条件がないと揉め直す/書面化が重要
※具体的な契約形態(担保設定・書面の作り方等)や登記・法的拘束力の設計は個別性が高く、必要に応じて確認が必要です。
ルート1:手持ち(貯蓄・保険・資産整理)
向いているのは、早く終えたいケースです。
ただし、ここでよく起きるのが「払えると言っているけど信用されない」問題。
手持ちのお金があると言っても、そもそも親のお金と同居の子どもの家計が混在している場合は、「それって相続財産じゃないの?」という疑いも発生します。この場合、お金の見せ方(棚卸し)が先になります(シリーズ⑤へ)。
ルート2:借入(判断軸だけ押さえる)
ここでは商品紹介はせず、「現実的かどうか」の見方だけ押さえます。
- 向いている:収入が安定/返済計画が立つ/名義・担保等の整合が取れる
- 注意:審査がある/返済で家計が圧迫する/権利関係が絡むため事前確認が必要
「借りれば解決」ではなく、ちゃんと返せることが大切です。
(借入や担保、登記みは個別性が高いため、必要に応じて確認が必要です)
ルート3:分割払い(期限と条件がないと揉め直す)
分割は便利ですが、曖昧だと破綻します。
最低限、以下は決めておきます。
- 支払総額
- 支払方法(毎月/毎年など)
- いつまで(期限)
- 遅れた場合の扱い
- 出口(将来売却するなら、その時どう清算するか)
そして、大切なのは書面化です。
口約束だと、時間が経つほど「言った/言わない」になり、関係が削れます。
※書面化の内容・法的な整え方はケースで異なるため、必要に応じて確認が必要です。
ケース分け:どのルートが現実的?
分岐A:手持ちで足りる/足りない
- 足りる:早期決着に向きます。期限を置いて合意へ。
- 足りない:借入か分割へ。
分岐B:借入が組める/組めない
- 組める:返済計画を作り、家計に無理がないか確認。
- 組めない:分割か、設計変更(シリーズ③)へ。
分岐C:分割支払いの原資が確実か
- 確実:期限・条件・書面で合意を作りやすい。
- 期待だけ:危険サイン。
「無理筋」を早めに見切る
無理を通すと、後で問題が大きくなりがちです。
早めに見切った方が、関係も傷みにくいです。
危険サイン3つ(当てはまるほど設計変更を検討)
- 不足額が大きすぎる
- 借入が難しい(返済設計が成り立たない)
- 分割払いの原資が確実でない
無理筋ならシリーズ③へ:売る/期限付き居住へ設計変更
数字が合わないなら、出口を変えるのが安全です。
- 期限付きで住む→将来売却
- 売却して清算
こうした選択肢を比較して、生活と公平の両方が壊れにくい形に寄せます(シリーズ③)。
合意を壊さない“言い方”
交渉の勝ち負けが大切なのではありません。
設計を前に進めるため、言葉の使い方も大切です。
同居側 → 別居側へ(代償金を払う側が言う)
「払う意思はあります。方法と期限を提案します」
- 「払うつもり」は気持ち
- 「いつまでに/どの方法で」は設計
期限を出すことが、誠意として伝わりやすくなります。
(もう一段具体にするなら)
「不足額は概算で○○円。手持ち△△円+残りは(借入/分割)で、×年×月までに完了させます」
別居側 → 同居側へ(待つ側が言う)
「家を残すこと自体に反対ではない。条件を数字と期限で確認したい」
- 「売れ」ではなく「設計して」と言う
- 求めるのは「金額・期限・条件(遅れたらどうするか)」
人格の話にせず、確認項目に落とします。
(短い版)
「賛成も反対もしない。いつまでに、いくらを、どう払うかだけ決めましょう」
どちらからでも使える揉めない合言葉
「気持ちはわかった。今日は「不足額→原資→期限」だけ決めよう」
よくある失敗
- 「後で払う」で先延ばし → 期限がなく不信が育つ
- 借入前提なのに返済設計が甘い → 途中で詰む
- 分割の条件が曖昧 → 支払のたびに揉め直す
- 代償金だけ見て、維持費(税・修繕・管理)を見落とす → 不公平が噴き出す
代償金 概算メモ
以下のシートを埋めることを話し合いの目的にしてみましょう。
・実家の目安価格:____円(手がかり:査定/近隣相場/参考評価)
・現金・すぐ出せるお金:____円
・相続人(きょうだい)人数:__人
・誰が実家を引き取る想定?:____
・相手に渡す必要がある概算:____円
・不足現金(概算):____円
原資ルートの○×△
・手持ち:○/△/×(根拠:____)
・借入:○/△/×(根拠:____)
・分割:○/△/×(根拠:____)
・分割にするなら期限(仮):__年__月まで
メモの書き方
- 実家の目安価格を出す
- 代償金と、手持ちで不足する金額を確認する
- 原資ルート(手持ち/借入/分割)に○×△を付ける
- 分割なら「いつまで」を決める
- 家計混在・立替が絡むなら、精算の棚卸しへ(シリーズ⑤)
- 無理筋サインが2つ以上なら、出口比較へ(シリーズ③)
まとめ
- 代償金は「払えるか」より先に、不足額を出す
- 原資は「手持ち/借入/分割」の3ルートに整理して現実性を判定
- 数字が合わないなら、無理に押し切らず設計変更(シリーズ③)が安全
最初の一歩:今日、概算シートを埋めて「不足額の桁」を出してください。
そこが見えるだけで、家族会議の話題が前に進みます。
次のステップ
- まず「代償金 概算シート」を埋めて、不足額を見える化してください。
- 原資が見えたら、止まり方で次へ進みます。
- 「売る/売らない」で対立する → シリーズ③(着地点比較)
- 共有にしそう/共有で揉めそう → シリーズ④(共有ルール)
- 立替や家計混在で不信が強い → シリーズ⑤(費用精算)
- 数字が合わない場合は、無理に押し切らず“設計変更”が安全です。
免責・取扱領域について
※本記事は、現在の法令・通達・運用等を前提とした一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な事情に対する法的判断・税務判断を行うものではありません。財産内容、家族関係、居住状況、契約状況、評価・税務上の取扱い等により結論は異なり得ます。
※法令・通達・運用等は将来変更される可能性があります。最新の取扱いは、必要に応じて専門家への確認が必要です。
専門領域の目安(確認・依頼が必要な場面)
- 当事者間に争いがある/相手方との交渉が必要:弁護士への確認・依頼が必要です。
- 相続税・贈与税等の税額判断、申告の要否・方法:税理士への確認が必要です。
- 相続登記・名義変更、抵当権抹消等の登記手続:司法書士への確認・依頼が必要です。
- 土地の分筆、境界、表題部(表示に関する登記)等:土地家屋調査士への確認・依頼が必要です。
- 不動産の価格査定・売却実務:不動産会社等での確認が必要です。
当方(行政書士)は、(争いがない前提での)事実整理と書類作成支援に加え、全体の進め方(順番・必要手続・担当分野)を整理し、必要に応じて適切な専門家への相談につながるよう手順を整えます(交渉代理は行いません)。

