遺言書を書く前に|相続人を確認する

遺言書を考える

自宅は、妻に残したいけど、孫にも少し渡したいな

遺言書を考えるとき、多くの方はまず「誰に残したいか」から考えます。

え、だめなの?

誰に残したいかは大切です。
でも、同時に確認しておきたいことがあります。

それは、、、

現時点で、法律上だれが相続人になる可能性があるのかです。
※ 正確には、遺言書を書く前の段階では、将来相続人になる可能性がある「推定相続人

「誰に残したいか」だけで進めると、あとから思わぬ人の権利や負担が出てくることがあります。


遺言書を書く前に、なぜ推定相続人を確認するのか

1 希望と法律上の権利がずれないようにするため

有効な遺言書があれば、自分の意思で財産の残し方を決めやすくなります。
ただし、推定相続人を確認しないまま書くと、家族関係に合わない内容になることがあります。

たとえば、再婚している場合です。

「今の妻に全部残したい」と思っていても、前婚の子が推定相続人になることがあります。

配偶者・子・直系尊属には、遺留分が関係することがあります。(兄弟姉妹には遺留分はありません。)

つまり、推定相続人を確認することは、
誰に残したいかだけでなく、誰の権利に配慮すべきかを確認することでもあります。

2 残された人の戸惑いを減らすため

相続でこじれる原因は、財産の多い少ないだけではありません。

「聞いていなかった」
「なぜこの人が関係するのか分からない」
「自分は関係ないと思っていた」

こうした小さな違和感が、相続後に大きくなることがあります。

こうした違和感が、遺された家族の人間関係に影を落とすことがあります。

3 相続人以外に残す場合の負担を見落とさないため

孫、内縁の相手、友人、お世話になった人などに残したい場合もあります。
でも、その人が法律上の相続人でない場合は、注意が必要です。

相続税が発生する場合、相続人以外の人への遺贈では、相続税の2割加算が関係することがあります。

「喜んでほしい」と思って残したものが、受け取る人の負担になることもあります。

遺言書を書く前に、推定相続人と、それ以外で財産を受け取ってほしい人を分けて考えることが大切です。


相続人について

1 配偶者は常に相続人になる

法律上の配偶者は、常に推定相続人になります。

一方で、内縁関係・事実婚の相手は、法律上の配偶者ではないため、通常、推定相続人になる立場ではありません。ただし、遺言書で遺贈することにより、受遺者として財産を受け取る人になることはあります。

2 子どもがいれば、原則として子どもが相続人になる

子どもがいる場合、原則として子どもが相続人になります。
ここには、前婚の子、養子、認知した子などが含まれます。

「今は付き合いがないから」
「何十年も会っていないから」

そう思っていても、相続人になるかどうかは、戸籍上の関係で確認します。

3 子どもがいない場合は、直系尊属・兄弟姉妹を確認する

子どもがいない場合は、父母や祖父母などの直系尊属が、次順位の推定相続人になります。
直系尊属もいない場合は、兄弟姉妹が推定相続人になります。

「子どもがいないから、全部配偶者へ行く」とは限りません。
ここは、思い込みが起きやすいところです。


特に注意したいケース

1 再婚していて前婚の子がいる場合

現在の配偶者に多く残したい。
この気持ちは自然です。

ただ、前婚の子も推定相続人になります。

今の配偶者には、これからの生活があります。
でも、前婚の子にも、法律上の立場や気持ちがあります。

2 子どものいない夫婦の場合

子どものいない夫婦では、配偶者にすべて残したいと考える方が少なくありません。
でも、子どもがいない場合でも、配偶者だけが推定相続人になるとは限りません。

父母や祖父母などの直系尊属がいれば、配偶者と直系尊属が推定相続人になります。

直系尊属がいなければ、兄弟姉妹が推定相続人になります。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、甥・姪が代襲相続人になることもあります。

なお、父母や祖父母などの直系尊属には遺留分がありますが、兄弟姉妹には遺留分がありません。

直系尊属がいる場合は遺留分への配慮が必要になることがあり、兄弟姉妹や甥・姪が推定相続人になる場合は、遺言書の有無によって、相続後の手続きの進めやすさが変わることがあります。

3 相続人以外に残したい場合

(1)孫に残したい場合

「孫に少し残してあげたい」
これもよくある希望です。

ただし、親である子が健在で、孫と養子縁組をしていない場合、孫は通常、そのまま相続人になるわけではありません。

※ 子が先に亡くなっている場合などは、代襲相続が関係することがあります。

相続人ではない孫に遺言書で遺贈する場合、相続税の2割加算が関係することがあります。

また、生前に贈与をしている場合は、その孫が相続や遺贈、死亡保険金などで財産を取得するかどうかによって、相続税の計算上の扱いが変わることがあります。

ここは税務判断に関わるため、遺言で残すのか、生前贈与も含めて考えるのかは、税理士に確認しておくと安心です。

孫への生前贈与を考えるとき

孫が相続人ではなく、相続や遺贈、死亡保険金などで財産を取得しない場合、生前に受けた暦年贈与は、原則として相続税の計算に加えられません。

一方で、孫が遺贈や死亡保険金などで財産を取得する場合は、過去の暦年贈与が相続税の計算に加えられることがあります。死亡保険金は、契約内容によって相続税の対象になることがあります。

なお、相続時精算課税による贈与は、暦年課税とは別の仕組みで、将来の相続税計算に関係します。一度選ぶと、その贈与者からの贈与について暦年課税へ戻れない点にも注意が必要です。

税務上の判断は、税理士に確認しましょう。

(2)内縁の相手・友人・団体などに残したい場合

内縁の相手、友人、お世話になった人、団体などは、推定相続人ではありません。
財産を残したい場合は、遺言書で明確にしておくことが大切です。

ただし、他の推定相続人に遺留分がある場合や、相続税が発生する場合には、注意が必要です。

「残したい」という気持ちだけで決めるのではなく、受け取る人が困らない形になっているかまで確認しておきましょう。

遺言書を書く前に確認したいこと

遺言書の内容を考える前に、次の順番で整理しておきましょう。

1. 戸籍で推定相続人を確認する

推定相続人は、思い込みではなく戸籍で確認します。

特に、再婚、前婚の子、養子、認知した子、子どもがいない夫婦、兄弟姉妹や甥・姪が関係しそうな場合は注意が必要です。

2. 財産を渡したい相手が、相続人になる立場か確認する

孫、内縁の相手、友人、団体など推定相続人ではない人に残したい場合は、
遺言書で明確にすると同時に、税金や手続きの負担も確認しておきましょう。

3. 遺留分が関係しそうな人を確認する

配偶者、子または直系尊属には、遺留分があります。
(兄弟姉妹には遺留分はありません。)

誰かに多く財産を残す場合、この遺留分も確認しておきましょう。

まとめ|まずは「誰が関係するのか」を整理する

遺言書を書く前に確認したいのは、財産の分け方だけではありません。

まず大切なのは、
現時点で誰が関係者か
を整理することです。

誰に遺留分が関係しそうなのか。
相続人以外に残したい人はいるのか。
その人に残すことで、税金や手続きの負担が生じないか。

ここを整理しておくと、遺言書の内容も考えやすくなります。

遺言書は、自分の希望を実現するための書類です。
だからこそ、思い込みで書くのではなく、まずは相続に関わる人を確認するところから始めましょう。


免責・取扱領域

本記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。個別の家族関係、遺言の有無、税務上の取扱いなどにより、必要な対応は異なります。

本記事は、相続に関わる人を整理するための一般的な情報です。相手方を説得したり、条件交渉を代わりに行ったりするものではありません。

当事者間に争いがある場合や交渉が必要な場合は弁護士へ、相続税や贈与税の判断は税理士へ、不動産の相続登記は司法書士へ相談してください。

行政書士は、争いがない前提での事実整理、書類作成、手続きの順番整理、必要な専門家への橋渡しを行います。交渉代理は行いません。

この記事を書いた人

行政書士・相続診断士 岸 也数志(きし やすし)
行政書士事務所つなぐ 代表

高齢者施設の現場で、多くの高齢者の暮らしや、ご家族が抱える悩みに触れる。
一方で、相続税対策としての投資用不動産の提案にも携わってきた経験を持つ。

ホスピスでのボランティア経験からは、相続を財産の分け方だけでなく、ご本人の人生や想いを家族へつなぐ機会として捉えることを学ぶ。

「ご本人が歩んできた人生や大切にしてきた想いを、家族の『ものがたり』として未来へつなぐ」
この視点を大切に、高齢期の暮らしと財産の両面を見てきた経験をもとに、人生の後半における暮らしの支援と相続対策を中心に業務を行っている。

相続やこれからの暮らしについて迷っている方へ

行政書士事務所つなぐでは、現在の状況を伺いながら、必要な準備や手続き、相談先を分かりやすく整理します。「まだ相談するほどではないかも」と感じる段階でも、まずはお気軽にお話しください。