2026年10月13日、厚生労働省の「成年後見制度利用促進専門家会議」で、次の基本計画に向けた議論が行われました。
成年後見制度は、認知症などで判断する力が十分でない人について、契約や財産管理などを法律上支える制度です。今年6月、この制度を見直す法律が成立しました。今後は、本人に必要な事項に範囲を絞って利用し、利用する必要がなくなれば終了できる仕組みに変わります。また、将来に備えて本人が契約で支援内容を決めておく『任意後見』の活用も、今回の重要なテーマです。
その変更に合わせて、相談を受ける市町村や、本人を支える関係者も、支援の進め方を見直す必要があります。どの手続には成年後見による代理などが必要で、どの仕事は別のサービスに頼めるのか。本人の希望を確かめながら、それぞれを引き受ける相手を決めなければなりません。
今回の会議資料には、そのための課題と対応案が示されています。何が変わろうとしているのか。地域で実施するためには、何を決める必要があるのか。資料の内容を整理したうえで、私自身の考えを述べたいと思います。
1.法律は成立した。今回の会議は、何を検討する場なのか
まず、法改正と基本計画の関係を確認します。
成年後見制度を見直す民法等の改正法は、2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されています。今回の会議で法律を改正したわけではありません。
一方、成年後見制度利用促進基本計画は、国が成年後見制度に関する施策を進めるための計画です。現在の第二期計画は2022年度から2026年度までを対象としており、今回の会議は、2027年度以降の第三期計画に向けた検討です。
法律が定めるのは、制度を利用するための条件や、支援者に与えられる権限などです。しかし、本人が困ったときには、相談を受け、必要な支援を確かめ、引受先を探す仕事も必要です。
今回の資料は、その仕事を市町村や相談機関がどう進めるかを検討しています。国がマニュアルや情報を示す案もありますが、会議資料に書かれた対応案が、すべて決定済みの運用になったわけではありません。
2.法改正によって、支援の組み合わせ方が変わる
現在の法定後見には、本人の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助があります。特に後見では、後見人に広い代理権などが与えられます。また、後見・保佐では、利用のきっかけとなった手続が終わっても、判断能力が回復しない限り、制度を終了できないことが課題でした。
改正法は、法定後見を新しい「補助」の制度に一元化し、本人に必要な事項について権限を与える仕組みに改めます。判断能力が回復していなくても、利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、終了できるようになります。
この成年後見制度に関する改正は、公布から2年6か月以内の政令で定める日に施行されます。
会議資料では、日々の支払いなどは地域の支援を受けながら、遺産分割が必要になったときに、その手続に必要な代理権を補助人に与える例が示されています。遺産分割が終わり、ほかに補助を使う必要がなければ、補助の利用を終了するという例です。
ほかにも、補助を利用して生活に必要な支援の契約などを整え、その後は別の支援へ移る例が挙げられています。
ここで大切なのは、「特定の法的手続が終わること」は「生活上の支援が不要になること」と同じではないという点です。 例えば、遺産分割が終わって補助を終了できたとしても、日々の支払いの手助けは引き続き必要かもしれません。逆に、遺産分割のほかにまだ法的な代理が必要なら、補助はすぐには終了できません。「手続が終わったあと、何の支援が残っているか」を丁寧に見極める必要があります。
3.任意後見については、何を進めようとしているのか
任意後見は、本人が十分に判断できる間に、将来支援を頼む相手と任せる仕事を契約で決めておく制度です。今回の資料でも、本人が相手と支援内容を選べる仕組みとして、独立した項目で扱われています。
任意後見を地域の相談窓口で案内すること自体は、以前から求められていました。第二期基本計画でも、任意後見の利用促進は優先事項です。今回初めて、市町村が任意後見を紹介できるようになるわけではありません。
今回は、法改正による変更を踏まえて、説明や相談を進めようとしています。変更には、次の二つがあります。
(1)任意後見監督人を選任しない場合を設ける
任意後見監督人は、任意後見人が適切に仕事をしているかを確認する人です。
改正法では、家庭裁判所が、監督人による監督が明らかに必要ないと認める場合に、監督人を選任しないことができる仕組みを設けます。本人と契約相手の判断だけで、監督を省けるという意味ではありません。
(2)新しい補助制度との併用を可能にする
任意後見の契約による支援を続けながら、それに加えて補助制度による権限が必要な場合に、組み合わせて使えるようにします。
これらは成立した改正法の内容ですが、まだ施行されていません。
会議資料は、市町村や地域権利擁護相談支援センターが、こうした変更も含めて任意後見を説明できるよう、国が相談の進め方や先進事例を共有する案を示しています。
例えば、「今は自分で暮らせるが、将来頼れる家族がいない」という相談なら、現在必要な支援とともに、判断能力が低下した後に誰に契約や財産管理を任せるかも検討できます。その際に任意後見を説明し、本人が選べるようにするということです。
ただし、今回の資料で、任意後見を引き受ける人をどう紹介するか、その報酬などを誰が負担するかまで決まったわけではありません。従来からの利用促進策を、改正後の制度に合わせて具体化する提案として捉える必要があります。
4.福祉サービス利用援助事業との関係は?
別の記事で、家族に頼めない入院手続や死後の対応を、誰が担うかを考えました。そこで取り上げたのが「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」です。
この事業は、社会福祉法等の改正によって、現在の「福祉サービス利用援助事業」が拡充、位置づけられました。日常的なお金の管理や書類の預かりなどの支援に、入退院・施設入退所の手続支援、または死後の事務に備える支援を組み合わせるものです。
頼れる家族がいない高齢者などへの支援という目的もあり、成年後見の利用者だけを対象とする事業ではありません。今回の資料では、補助と並行して利用したり、補助の終了後に利用したりする支援の一つとしても挙げられています。
ただし、この事業の利用契約を結べば、すべての法律行為を代行してもらえるわけではありません。見守り、日常的な支払い、遺産分割の代理では、必要な仕事も権限も異なります。
どの事業者が何を引き受け、その仕事にはどのような契約や権限が必要かを確かめることが、制度を組み合わせる前提になります。
5.相談と調整は誰が行い、実際の仕事は誰が担うのか
会議資料が想定しているのは、市町村や地域権利擁護相談支援センターなどが、本人の困りごとを整理し、専門職の助言も受けながら、支援方法を検討する流れです。
このセンターは、地域で成年後見制度などの適切な利用を支える中核となる相談機関です。身近な相談窓口から必要な情報を受け取り、関係者と支援方針を検討することが想定されています。
支援方針を決めた後は、補助人や任意後見人、社会福祉協議会、民間事業者などのうち、誰がどの仕事を引き受けるかを調整する必要があります。相談を受ける機関と、実際に金銭管理や生活支援を行う人が、同じとは限りません。
例えば、次のような確認が必要になります。これは説明のための例で、全国共通の決定済みの分担ではありません。
| 本人が必要とすること | 担当を決める際に確認すること |
|---|---|
| 定期的に生活の様子を確かめてほしい | 誰が訪問し、変化に気づいたらどこへ連絡するか |
| 日々の支払いを手伝ってほしい | 誰が、どの契約や権限に基づいてお金を扱うか |
| 本人に代わって法律上の手続をしてほしい | どの行為について代理権が必要で、誰に任せるか |
| 状態が変わったとき、支援を見直してほしい | 誰が相談を受け、関係者を集めるか |
「複数の支援を組み合わせる」とは、制度名をいくつか紹介して終わることではありません。本人の希望を確かめたうえで、担当者、仕事内容、権限、連絡先を決めることです。
6.まだ決まっていないことは何か
今回の資料だけでは、地域ごとの引受先、人員、料金、費用の負担者までは分かりません。国が具体的な手法を示す案や、人員体制を整えるための予算要求はありますが、それによって各地域の実施体制まで決まったわけではありません。予算要求も、予算の確定とは区別する必要があります。
特に、次の点は具体化を確認する必要があります。
(1)支援を引き受ける相手と、利用するための条件
補助の終了後も金銭管理などが必要な人を、誰が引き受けるのでしょうか。契約に基づく支援を使う場合には、本人がその契約を理解し、意思を示せるかという問題もあります。後見以外の事業があるだけで、必要な人が全員利用できるとは限りません。
(2)本人の状態が変わったときの対応
見守りの担当者が支払いの滞りに気づいても、本人が自分から相談できるとは限りません。誰が連絡を受け、支援の追加や補助の利用を検討するかを決めておく必要があります。
(3)支援を続けるための費用
相談、訪問、金銭管理、関係者との打合せには人手と時間がかかります。本人が払えない場合に、その費用を誰が負担するのかも欠かせません。
福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業については、事業者向けガイドラインなどで詳細を示す予定とされています。法律に新しい事業が位置づけられても、地域に引受先があり、その人が利用できる条件が整っているかは、別に確認しなければなりません。
7.私が期待すること、地域で取り組みたいこと
ここからは、私自身の考えです。 私は、本人に必要な仕事を確かめ、その範囲に合わせて法的な権限と生活支援を選ぶ方向を評価しています。任意後見についても、本人が相手や支援内容を選べる時期に説明を受け、将来の備えを考えられることには大きな意味があります。
そのうえで、「制度を終えられること」だけを成果にしてはいけないと思います。終了後に必要な支援が途切れるのであれば、本人の暮らしは守れません。 例えば、普段から本人の相談を受けているケアマネジャーが、新しい支援先を探して連絡や打合せを重ねても、引き受けてもらえなければ問題は解決しません。「相談や調整の担当者を決めること」と、「実際の仕事を引き受ける相手を確保すること」は、両方揃って初めて機能します。
地域で決める必要があるのは、誰がどの仕事を引き受け、今対応している人からどう引き継ぐかです。 見守りは誰が行うのか。支払いや契約には誰が、どの権限で関わるのか。事業者が対応できない時間帯はどうするのか。その費用をどう確保するのか。社会福祉協議会、自治体、福祉・医療関係者、民間事業者、そして私たち専門職が、実際の相談で対応できなかった仕事とその理由を確かめ、分担や費用の仕組みを検討する必要があります。
次期基本計画で注目したいのは、相談から実際の支援まで、誰が何を担うかがどこまで具体的に示されるかです。地域でも、「引受先が見つからなかった仕事」とその理由を共有し、必要な人員や費用を自治体とともに検討していく必要があると考えます。
参照資料
- 厚生労働省「第23回成年後見制度利用促進専門家会議」(2026年10月13日)
資料1「成年後見制度の見直し等を踏まえた適切な権利擁護支援の実施」
資料2「成年後見制度の見直しの趣旨・内容等を踏まえた適切な権利擁護支援の浸透」 - 厚生労働省「第二期成年後見制度利用促進基本計画」
- 厚生労働省「頼れる身寄りがいない高齢者等への支援について」(2026年10月9日)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律案」(成立・公布、施行時期等)
※2026年10月22日時点。制度の説明は上記の公表資料に、会議に関する説明は公表された配付資料に基づいています。今後の具体的な運用については、基本計画や政省令、通知などの公表に応じて確認が必要です。


