入院した母の代わりに預金を引き出せる?

これからの暮らしの備え

「母が入院したので、代わりに銀行からお金を引き出したいのですが」

母親は78歳。転倒して入院することになりました。娘は大阪で暮らしています。母親の入院を聞いて東京へ来ましたが、仕事もあるため、ずっと付き添うことはできません。

母親の預金は十分にあります。入院費の支払いにも困らないはずです。母親は意識もはっきりしていて、娘に手続きを頼むことにも同意しています。

それなら、娘が母親の代わりに銀行へ行けば済むのでしょうか。

実は、親子だからといって、当然に親の預金を引き出せるわけではありません。

では、どうすればよいのでしょう。

1 「銀行に行けない」と「判断能力が低下した」は違う

ここは最初に区別しておきたいところです。

母親が骨折で入院していても、預金がいくらあるか、何のためにお金を使うかを理解していれば、自分で判断できます。ただ、銀行の窓口まで行くことができない、あるいは大変に困難な場合です。

一方、認知症によって、預金の管理について判断したり、銀行に意思を伝えたりすることが難しくなった場合は、事情が異なります。

前者なら、本人に代わって家族が手続きをする方法を考えられます。

後者では、本人の意思を確認できないこと自体が問題になります。家族が委任状を持っていくだけでは、対応できない場合があるのです。

2 本人に判断能力がある場合

本人が判断できるうちに準備する方法として、銀行が発行する「代理人カード」があります。本人用とは別に家族用のキャッシュカードを作り、家族がATMで預金を引き出せるようにするものです。

ただし、家族なら誰でも代理人になれるわけではありません。また、カードでできる取引には限りがあります。

(1)みずほ銀行――離れて暮らす子どもも代理人になれる

みずほ銀行の代理人カードは、配偶者、二親等以内の血族、または本人と同居する親族のうち、成年1名を対象としています。娘は二親等以内の血族ですから、母親と離れて暮らしていても、親族関係の条件には該当します。

代理人カードでは、ATMで預金の入出金、振込、振替などができます。

ただし、カードだけで定期預金を解約できるわけではありません。

(2)三菱UFJ銀行――「生計をともにする親族」という条件がある

三菱UFJ銀行にも代理人カードがあります。

ATMでの預金の入出金や振込などができますが、代理人として登録できるのは、本人と生計をともにする親族1名です。

東京で暮らす母親と、大阪で独立して生活している娘の場合、この条件を満たさないことが考えられます。

みずほ銀行とは、代理人になれる人の条件が違うのです。

なお、代理人カードだけで定期預金を解約したり、投資信託を売却したりすることはできません。

(3)三井住友銀行――ATMと窓口で仕組みが分かれている

三井住友銀行には、「代理人キャッシュカード」と「代理人指名手続」があります。

代理人キャッシュカードは、ATMで預金を引き出すためのものです。入金にも使えます。

一方、代理人指名手続は、登録された代理人が窓口で預金を引き出すための仕組みです。こちらも窓口での入金が可能です。

どちらも、原則として事前に預金者本人が窓口で申し込む必要があります。

では、母親がすでに入院していて、申込みに行けない場合はどうでしょうか。

三井住友銀行は、本人が入院などの事情で来店できない場合には、事情を聞き、必要な資料を確認したうえで対応を検討することがあると案内しています。

事前登録がなければ絶対に引き出せない、というわけではありません。ただし、必ず認められるということでもありません。

(4)ゆうちょ銀行――代理人カードに加え、委任状による手続きも

ゆうちょ銀行でも、本人用とは別に代理人カードを発行できます。代理人カードがあれば、ATMで貯金を引き出すことができます。

また、ゆうちょ銀行では、通常貯金だけでなく定額貯金や定期貯金についても、委任状を使って家族が窓口で払戻しを行う方法があります(詳しい条件は後ほど触れます)。

つまり、本人が判断でき、手続きを家族に頼む意思を示せる場合には利用できる方法ですが、本人の意思確認が難しくなった後にも同じように使えるとは限りません。

3 将来、認知症などで判断能力が低下したら?

ここまでは、主として、本人が判断できる状態で家族に銀行取引を任せる方法を見てきました。

では、本人が預金の管理について判断できなくなった場合はどうでしょうか。

実は、みずほ銀行と三菱UFJ銀行には、将来、本人の判断能力が低下した後も、家族などが一定の銀行取引を行えるようにするための制度があります。通常の代理人カードとは、目的も仕組みも異なります。

(1)みずほ銀行の「代理人予約サービス」

みずほ銀行の代理人予約サービスは、本人が判断できるうちに、将来の代理人を指定しておく制度です。

その後、認知・判断機能が低下して本人による銀行取引が難しくなった場合に、銀行所定の診断書などを提出すると、指定された代理人が取引できるようになります。

代理人ができる主な取引には、円預金の入出金・解約、外貨預金や投資信託などの売却・解約、住所変更、通帳再発行、残高証明書の発行などがあります。

つまり、通常の代理人カードとは異なり、定期預金を含む円預金の解約などにも対応する仕組みです。

代理人に指定できるのは、原則として配偶者または二親等以内の血族です。

なお、予約をした時点で代理人が取引を始めるわけではありません。それまでは本人が取引を続けます。

そして、代理人による取引が始まると、もう一つ大きな変化があります。

本人のキャッシュカードは利用停止となり、インターネットバンキング(みずほダイレクト)の契約解約なども行われます。

家族が取引できるようになる一方で、それまで本人が利用していた銀行サービスの一部は使えなくなるのです。

代理人を登録することと、実際に代理人へ取引を移すことは、分けて考える必要があります。

(2)三菱UFJ銀行の「予約型代理人」

三菱UFJ銀行にも、同様に将来の判断能力低下に備える「予約型代理人」があります。

本人が判断できるうちに代理人を指定し、その後、本人の認知・判断機能が低下して銀行取引が難しくなった場合に、所定の診断書などを提出して代理取引を始めます。

代理人ができる主な取引には、円預金の入出金・解約、投資信託などの運用商品の売却・解約、住所変更、残高証明書の発行などがあります。

通常の代理人カードとは異なり、定期預金の解約などにも対応します。

代理人になれるのは、原則として配偶者または二親等以内の血族です。その他の親族やパートナーを指定できる場合もあります。

こちらも、代理人を予約しただけで直ちに取引を任せる仕組みではありません。

なお、代理取引を開始した後、本人用のキャッシュカードやインターネットバンキングがどう扱われるのかについては、公式公開資料だけでは断定できません。

(3)三井住友銀行の代理人指名手続とは何が違う?

ここで重要なのが、三井住友銀行との違いです。

三井住友銀行の「代理人指名手続」は、本人に代わって家族が窓口で出金するための仕組みですが、将来の判断能力低下に対応する予約型代理人制度として案内されているものではありません。

三井住友銀行は、本人の意思確認ができなくなった場合について、成年後見制度を利用する方法を案内しています。

つまり、代理人指名手続を済ませておけば、将来、本人が判断できなくなっても家族がそのまま預金を引き出し続けられる、と考えるのは適切ではありません。

これに対して、みずほ銀行の代理人予約サービスと三菱UFJ銀行の予約型代理人は、まさにそのような将来に備えて、本人が判断できるうちに代理人を指定しておく制度です。

同じ「代理人」という言葉が使われていますが、役割は違うのです。

4 4つの銀行の違いを整理すると

銀行今、家族が取引する方法将来の判断能力低下への備え
みずほ代理人カード代理人予約サービス
三菱UFJ代理人カード予約型代理人
三井住友代理人キャッシュカード、代理人指名手続本人の意思確認ができない場合は成年後見制度を案内
ゆうちょ代理人カード、委任状による手続き通常の代理手続きとは別の対応を確認する必要がある

銀行ごとに制度の設計が異なっていることに注意が必要です。

なお、予約型代理人制度は、あくまでも各銀行での取引に関する仕組みです。当然ながら、介護施設との契約や不動産の管理など、生活全体の手続きをすべて任せられるわけではありません。

5 冒頭のケースは?

冒頭の母親のケースに戻りましょう。

母親は入院していますが、判断能力には問題がなく、娘にお金を引き出してもらいたいと思っています。

ただ、代理人カードは作っていません。

こんなとき、どうすればよいのでしょうか。

(1)母親のキャッシュカードを預かる?

実際には、母親からキャッシュカードを預かり、暗証番号を教えてもらって、娘がATMでお金を引き出すことも少なくないでしょう。母親が頼んでいるのだから、わざわざ銀行に相談する必要はない。そう考えるのも自然なことです。

ただし、注意すべき点があることだけは知っておいた方がいいと思います。

銀行のキャッシュカードは、原則として口座名義人本人が使用するものです。

例えば、三菱UFJ銀行では、キャッシュカード規定で他人へのカードの貸与を禁止しています。規定に違反した場合には、カードの利用を停止することがあるとも定めています。

つまり、母親が承諾していたとしても、娘が本人用カードを使うことは、銀行が想定している利用方法とは限らないのです。

もちろん、ここでは「口座を凍結する」と言っているわけではありません。規定違反によってカードの利用が停止される可能性はありますが、それと預金口座そのものが使えなくなることは別の問題です。

また、カードや暗証番号を家族に渡していた場合、紛失や不正利用などが起きたときに、銀行の補償を受けられない可能性もあります。

(2)委任状で引き出してもらうことはできる?

本人に判断能力があり、娘に預金を引き出してもらいたいという意思が明確なら、銀行が認める代理手続きを利用できる場合があります。

例えば、ゆうちょ銀行では、本人が窓口に行けなくても、家族が正式に預金を引き出す方法が用意されています。

この場合、本人が所定の委任状を作成し、代理人が窓口で払戻しを請求します。ゆうちょ銀行では、委任状は原則として、委任する本人がすべての欄を自筆で記入し、押印します。これは払戻しに限らず、委任状による各種手続きに共通する取扱いです。また、代理人の本人確認書類や印章なども必要です。手続きによっては本人の本人確認書類も求められ、ゆうちょ銀行から本人に電話で委任内容を確認する場合もあります。

三井住友銀行でも、原則として本人以外による出金は受け付けないとしたうえで、本人が入院などのため来店できない場合には、事情を確認し、必要な資料の提出を受けたうえで、代理人による出金に応じる場合があると案内しています。ただし、委任状だけで必ず払戻しできるという話ではないことに注意が必要です。

みずほ銀行や三菱UFJ銀行については、ご本人が窓口に行けない場合の案内がないため、個別に確認が必要になります。少なくとも、委任状があればいい、とは思わないほうがよさそうです。

6 元気なうちに確認しておきたいこと

今は自分で銀行へ行き、必要なお金を引き出せていても、年齢を重ねれば、それが難しくなることもあるでしょう。そんなとき、家族に代わってもらえれば安心です。ただ、これまで見てきたように、親子だからといって、どの銀行でも同じ手続きができるわけではありません。

例えば、毎月の生活費を引き出してもらえれば十分という方もいれば、いざというときには定期預金の解約まで任せたいという方もいるでしょう。離れて暮らす子どもに頼みたい場合には、その子どもが代理人になれるかどうかも確認しておく必要があります。

さらに、今は問題なく判断できていても、将来、認知症などによって預金の管理が難しくなる可能性もあります。そこまで備えたいのであれば、みずほ銀行の「代理人予約サービス」や三菱UFJ銀行の「予約型代理人」なども検討の対象になります。(もちろん、認知症になった場合に困ることは、銀行取引だけではありませんので、任意後見や家族信託なども検討の対象になります。)

ただし、これらは本人が判断できるうちに申し込んでおく制度です。実際に必要になったときには利用できないこともあります。

だから、まだ自分で銀行の手続きができるうちに、誰に、どこまで任せられるようにしておくか、考えておきたいものです。そのうえで、利用している銀行にはどんな仕組みがあるのか、確認しておくとよいでしょう。

7 まとめ――預金があることと、必要なときに使えることは違う

普段は当たり前のように使っている銀行口座も、自分で銀行へ行けなくなったり、判断能力が低下したりすると、これまでと同じようには使えなくなることがあります。

そんなとき、家族に手続きを頼めるようにしておけば安心です。ただし、銀行によって代理人になれる人や、任せられる取引の範囲は異なります。元気なうちに、自分が利用している銀行の制度を確認しておきたいものです。

銀行の代理人制度でできることを知る。それは、これからの暮らしに必要な備えを考える、一つの出発点になると思います。

※本記事の情報は2026年10月時点の各行の公式公開資料に基づいています